大阪のマンション市場は潮目に来ています。ここ数年は何を買っても値上がりする相場で、それを前提にした投資マネーが価格を先導してきました。いま起きているのは、その層の撤退です。利回りで説明できない価格帯から買い手が引き、残るのは自分で住む人の需要になる。実需の相場では、強みのある部屋か、価格が正しい部屋しか売れません。
当サイトが大阪市内の主要マンション610棟・約2,000戸の売出を毎日観測しているデータにも、それははっきり出ています。この2ヶ月で観測した値下げは766回。売出中の住戸の4割は、少なくとも2ヶ月以上買い手がついていません。一方で、成約した住戸の大半は一度も値下げせずに売れています。実需相場では、価格が合っていればいずれ売れます。ただし、すぐには売れません。買い手の絶対数が減っているので、合っている価格でも時間がかかり、合っていない価格は在庫として積み上がっていきます。
買い手市場では指値をすべき
調整局面で買う人は、買った後にさらに下がる可能性を買値に織り込んでおく必要があります。下げ止まりの時期は読めませんが、相場より安く買った分はそのまま下落へのバッファーになります。つまりこの局面では、どの物件を買うかと同じくらい、いくらで買うか(=指値)が資産防衛の手段になります。
値引きの実績も測れています。値下げを経た住戸は当初売出価格からすでに4%ほど下げており、成約はそこからさらに下で決まります。当初売出価格から1割下での成約は、珍しいことではありません。
下がりきるまで待てばいいのか
調整局面なら、底まで待ってから買えばいいという考え方もあります。ただし住宅ローンは、いつまでも同じ条件では借りられません。完済年齢の上限は多くの銀行で80歳。35年ローンを組めるのは実質44歳頃までで、それを過ぎると同じ借入額でも返済期間が縮み、毎月の返済が重くなっていきます。団体信用生命保険も、健康なうちにしか入れません。
つまり買える条件(年齢・健康・収入)には期限があり、相場の底がその期限に合わせて来てくれる保証はありません。買いたい人がやるべきは待つことではなく、買える年齢のうちに安く買うことです。その手段が指値です。
売出価格は、成約相場より12%上に置かれている
当サイトの各棟ページには、階数と成約水準に合わせて調整を重ねた相場ラインが引いてあります。この線と、いま売り出されている在庫の価格を突き合わせると、次のようになりました。
- 相場ラインを引けた在庫1,538戸のうち、87%が線より上の価格で売り出されている
- 乖離の中央値は線より12%上。54%は10%以上、上にいる
売出価格はあくまで売り手の希望であって成約ではない、というのはこのサイトで繰り返し書いてきたことですが、その開きがいま12%あります。売り手の期待がまだ上昇相場のままで、成約の実勢が先に下がり始めている。この差は、時間が経てば値下げで埋まるか、指値で埋まるかのどちらかです。買い手として先に動けるのは後者です。
指値を入れるべき物件の4条件
指値に適した物件の条件を説明する前に、大前提をお伝えしておきます。住みたい部屋が自分の中で定義できていることです。条件が揃っているからといって、何を買ってもいいわけではありません。買ってすぐ手放せば、仲介手数料や登記費用などの諸経費だけで数百万円単位の損失になります。安く買うことと同じくらい、長く住める家であることが前提です。
そのうえで、どの物件にでも強い指値が通るわけではありません。観測データで拾える条件は4つあります。
① 同じ棟か近隣に、似た在庫が多くあること。 売出中の住戸の3戸に2戸は、同じ棟に競合が5戸以上あります。競合が多ければ売り手同士に競争が働き、こちらは一番条件の良い1戸に指値を入れて、断られたら次に行けます。指値は断られてからが本番なので、代わりが利くことが交渉力になります。
② 相場ラインに近い価格帯であること。 狙うのは線の近く、上下5%以内に値付けされた物件です。線より1割上の物件は、10%の指値が通ってやっと実勢並みで、安く買ったことになりません。線から2割上は、売り手がそもそも実勢を見ていないか売る必要がないかのどちらかで、指値では埋まりません。線の近くに値付けする売り手は実勢を見ており、そこへの指値がそのまま実勢より下の買値になります。検討中の住戸が線のどこにいるかは、各マンションのページのグラフで分かります。そのうえで、さらに詳細に相場を把握したいときは簡易査定に棟名・階・面積を入れて確かめてください。
③ 売出期間が長いこと。 売出後90日以上経過しているのが目安です。3ヶ月動かなければ、売り手にも仲介にも焦りが出てくる時期です。
④ 価格改定の履歴があること。 一度でも下げた売り手は、価格を動かす意思決定ができる売り手です。値下げ後1ヶ月以上経過しているとなお良い。値下げしてもダメかと、売り手が弱気になっているタイミングです。
この4条件(同棟5戸以上・相場ライン±5%・長期売出・値下げ1回以上)をすべて満たす住戸は、今日時点で105戸あります。
通らなければ買わない、と明言する
指値で一番大事なのは、金額の根拠づくりではありません。この金額で通らなければ買わない、と買付で明言することです。設備の古さや内装の傷みを理由に添えるやり方もありますが、小手先の理由は「そこを解消すれば満額」という反論の余地を売り手に渡すだけです。示すべきは理由ではなく、この価格なら確実に買うという本気度と、それ以上は出さないという線です。
譲歩も不要です。同じ棟に競合が並び、3ヶ月買い手がつかず、値下げしても動かない。その状況は、誰よりも売り手自身が理解しています。中間の金額を探りにいった瞬間、交渉は売り手のペースに戻ります。提示は一度、金額は動かさない、通らなければ次の1戸へ移る。競合の多いいまの市場では、それができる買い手がいちばん強い立場にいます。
水準は強気でかまいません。やりすぎかな、と感じるくらいがちょうどいい。目標は相場ラインの10%下です。線の近くに値付けされた物件なら、売出価格からおよそ1割の指値になります。大半は断られますが、それでも応じる売り手はいます。断られたら次の1戸に移ればいいだけで、断られることはこの戦略の失敗ではなく前提です。
どの仲介を通して買付を出すかも、指値の通りやすさを左右します。指値をするなら売り手側の仲介に直接持ち込んで両手を取らせるのが定石で、その理屈は購入時の仲介会社の選び方に書いています。
今日時点で4条件をすべて満たす3戸
最後に、上の条件抽出をそのまま実行した結果から、価格帯を変えて3戸挙げます。3戸とも梅田から中之島の圏内に集まりましたが、これは偶然ではありません。4条件を満たす在庫の半分以上が北区・福島区に固まっており、指値が刺さりやすい物件はいま、この一帯に最も多くあります。機械的な抽出であって購入推奨ではありません。管理状態や眺望は各自の内覧で確かめる前提で、交渉の入口としての条件が揃っている住戸です。
| 住戸 | 売出価格 | 相場線比 | 状況 |
|---|---|---|---|
| シティタワー西梅田 15階 83㎡ | 11,400万円 | 4.5%下 | 値下げ2回・同棟在庫12戸 |
| ザ・パークハウス中之島タワー 6階 58㎡ | 9,280万円 | 4.7%上 | 値下げ2回・同棟在庫53戸 |
| グランドメゾン新梅田タワー THE CLUB RESIDENCE 15階 48㎡ | 7,980万円 | 2.6%上 | 値下げ2回・同棟在庫47戸 |
3戸とも売出から2ヶ月近く経過し、値下げの意思決定を済ませた売り手です。そして3戸とも、同じ棟に同タイプの競合が並んでいます。西梅田は83㎡前後が4戸、中之島タワーは60㎡前後だけで12戸、新梅田は50㎡前後の1LDKだけで10戸超。断られてもすぐ隣の部屋で仕切り直せる構図です。値付けは相場ラインの±5%以内なので、指値はラインの10%下を目標に置けます。この2ヶ月の成約実績でも4件に1件は7%超の値引きで決まっており、突飛な水準ではありません。同じ抽出は物件検索の相場比と新着・値下げを組み合わせれば、狙っている区でも再現できます。