私はこれまで、仲介会社の選び方ひとつで数十万〜数百万円を損している買い手を、何人も見てきました。 彼らが悪いわけではありません。多くの人は、そこに選ぶ余地があること、戦略があること自体を、そもそも知らないのです。 知らないから比べようがなく、気づかないまま損をする。
そして先に、はっきり言っておきます。これから書く内容を、不動産仲介の会社が自分から発信することは、まずありません。 理由は単純です。彼らの収入は、仲介手数料そのものだから。 「手数料を安くしろ」「価格を指値で下げろ」という話は、そっくりそのまま、自社の売上を削る話になります。 自分の取り分を減らすやり方を、わざわざ客に教える会社はいません。ポジショントークにならないから、発信しない。 だから、これを正面から言えるのは——あなたの支払う手数料で食べていない人間だけです。私はその立場で書きます。
買いたい物件が決まったあとの仲介会社選びは、手残りを最大化する(=総支出を最小化する)ための立派な戦略です。 一級建築士・元ゼネコン施工管理として物件の中身を見る一方で、私は取引の"お金の設計"も同じくらい大事にしてきました。 今回は、その最初の一手——同じ物件でも損をしないための、仲介会社の選び方を解説します。
判断の起点はただ一つ ——「指値をするか、しないか」
仲介会社を選ぶ基準は色々ありますが、最も上段に置くべきは「指値(さしね)をするかどうか」です。 指値とは、売り出し価格より低い価格を提示して買う交渉のこと。ここで戦略が真っ二つに分かれます。
- 指値をする → 物件を売り出している仲介会社に、そのまま買い付けを入れる(=その会社に「両手」を取らせる)。
- 指値をしない → 自分が信頼できて、かつ仲介手数料が安い会社に依頼する。
なぜこの二択になるのか。順番に説明します。まず前提として、仲介の「両手」と「片手」を押さえてください。
- 両手:一つの取引で、売主と買主の双方から仲介手数料をもらう状態。仲介会社の実入りは2倍。
- 片手:売主側と買主側に別々の会社が付き、それぞれ一方から手数料をもらう状態。
① 指値をするなら —— 売り仲介に「両手」を取らせる
指値は、出せば通るものではありません。誰かがその指値を売主に通してくれないと成立しない。 では、あなたの指値を通す「メリット」があるのは誰でしょうか。
- 売主:急いで売りたい事情がなければ、値下げに応じるメリットは基本ありません。
- 売り側の仲介:ここに強いメリットがあります。物件価格が下がっても、両手で決まるなら実入りは大きい。
値引き分は手数料の減り幅よりずっと小さいので、多少値を下げてでも自社で両手で決めたい。 だから売主に対して「この価格で決めましょう」と指値を通す方向で動いてくれることが多いのです。
- しかも売り仲介は、その物件を預かっている当事者です。売主との関係も良好なことが多く、売主も話に乗りやすい。
- さらに、両手が取れる仲介は、売主側の仲介手数料を割り引くことがあります。買主・売主の双方から手数料を得られる分、売主側を値引く余地が生まれるからです。売主にとっては「売却価格は少し下がるが、支払う手数料も減る」ので手取りの目減りが小さくなり、指値を受け入れやすくなる。これは売り側が片手しか取れない取引では、まず起きない現象です。
逆に、あなたが自分で選んだ別の不動産屋から指値を入れるとどうなるか。 売り側の仲介にとって、その取引は片手です。片手で指値を通すメリットは「売却の時期が少し早まる」くらい。 売主をわざわざ説得する価値が下がるので、指値は通りにくくなる。これが現場の力学です。
だから、指値の"取り分"で手数料差を上書きする
「でも売り仲介に頼むと手数料が満額で高いのでは?」——そのとおりです。だからこそ数字で考えます。 5,000万円の物件で、二つの買い方を比べてみましょう。
- A:仲介手数料1.5%の割安業者から、指値なしで買う
- B:売り出している仲介会社(手数料3%)に両手を取らせ、300万円の指値を通して買う
| A:割安業者(1.5%)・指値なし | B:売り仲介(3%)・両手・300万指値 | |
|---|---|---|
| 成約価格 | 5,000万円 | 4,700万円 |
| 仲介手数料 | 5,000万×1.5%=75万円 | 4,700万×3%=141万円 |
| 総支出 | 5,075万円 | 4,841万円 |
Bは手数料を66万円多く払っています。それでも、総支出はBのほうが234万円少ない。 理由は単純で、通した指値(300万円)が、手数料の差(66万円)を大きく上回るからです。
つまり判断基準はこう。「割安業者との手数料の差額」を上回る指値を売り仲介経由で通せるなら、 両手を取らせて買うほうが得です。逆に、指値が手数料差にすら届かないなら、無理に売り仲介を使う必要はありません。 (分かりやすさのため消費税・その他諸費用は省略しています)
② 指値をしないなら —— ひたすら「手数料の安さ」で選ぶ
指値をしないと決めたなら、話はシンプルです。交渉という場がないので、どこから買っても中身はほぼ同じ。 同じ物件を同じ価格で買うのですから、差がつくのは仲介手数料だけ。であれば、一円でも安い会社から買うべきです。
「ローンの通しやすさで不動産屋の力量差があるのでは?」という声もあります。確かに多少はあります。 ただ、あなたの信用情報がピカピカなら、どこで審査を出しても結果は大差ありません。 その場合、仲介手数料の安さが、そのまま手残りに直結します。ここで見栄や付き合いで満額払う必要はありません。
まとめ
購入時の仲介会社選びは、「指値をするか、しないか」で最初に分岐します。
- 指値をする → 売り仲介に両手を取らせ、手数料の差額を上回る指値を通す。
- 指値をしない → 手数料が最も安い会社から買う。信用が良ければローンの力量差は誤差。
この一手を間違えると、同じ物件でも手残りが数十万〜数百万円変わります。 「どこで買っても同じ」ではありません。買い方で、支出は設計できるのです。
大事なのは順番 ——「まず不動産屋」ではなく「まず戦略」
最後に、順番の話をさせてください。物件が決まっていない段階で、いきなり不動産屋に相談するのは悪手です。 仲介の仕事は"売る"こと。彼らは、あなたの支出を最小化する側の人間ではありません。 最初に足を運んだ店で、その店に都合のいい物件と買い方に乗せられる——これが最も多い失敗です。
正しい順番は逆で、まず「購入戦略」を作ること。
- どんな物件を、いくらまでなら買うのか
- 指値をするのか、しないのか
- するなら、どの導線(どの仲介経由)で、いくら通しにいくのか
この設計図を先に持っていれば、不動産屋は戦略を実行するための道具として使えます。 順番が逆だと、こちらが道具に使われる。ここが分かれ目です。
その購入戦略づくりから、私が一緒にやります。物件の目利き(建築士・元ゼネコン施工管理の視点)と、 指値・導線の組み立てを、最初から設計する。まだ動き出す前の段階こそ相談してください。 購入・売却相談へどうぞ。
(本記事は運営者の実務経験に基づく一般的な考え方の解説です。実際の取引条件・手数料は会社や物件により異なります)