Xで、あるタワーマンションについて「在来工法だから不安」という趣旨の投稿を見かけたのが、この記事を書いたきっかけです。PCa工法のほうが品質が良く、在来工法は劣る、という受け止め方があるようです。

タワーマンションの骨組み(柱・梁・床)のつくり方には、現場でコンクリートを流し込む在来工法と、工場でつくった部材を現場で組み立てるPCa工法があります。ただ、どちらの工法かを買う人が気にする必要はありません。それぞれの工法の中身と、気にしなくていい理由を説明します。

在来工法とPCa工法のつくり方

在来工法:すべて現場でつくる

在来工法は、現場打ちとも呼ばれます。鉄筋を組み、コンクリートの型になる型枠を組んで、そこにコンクリートを流し込みます。固まったら型枠を外し、次の階へ進みます。これを1階ずつ繰り返すので、タワーマンションでは1フロアに7〜11日程度かかります。

  • 強み:部材を運ぶ必要がなく、形の自由度が高い。敷地が狭くても、部材を置く場所や大型クレーンの制約を受けにくい
  • 弱み:天候の影響を受けやすく、仕上がりが職人の腕に左右されやすい。現場で働く人の数も多く必要になる

在来工法が有利になるのは、同じ形の階の繰り返しが少ない建物です。階数が少なめのもの、上の階ほど形が変わるもの、大型クレーンや部材の置き場を確保しにくい狭い敷地の建物などです。PCa工法は部材の型をつくる費用や大型クレーンの費用がかかるので、同じ部材を何十階分もつくれる建物でないと元が取れません。業界の資料でも、PCa工法は高さ31m以上の共同住宅で積極的に使われているとされています。タワーマンションで骨組みのすべてを在来工法でつくるのは、比較的小ぶりな建物に限られます。

PCa工法:工場でつくって現場で組み立てる

PCaはプレキャストコンクリート(Precast Concrete)の略で、あらかじめ打っておいたコンクリート部材という意味です。建設の世界で「PC」と書くとプレストレストコンクリート(鋼材で圧縮力をかけてひび割れにくくしたコンクリート)を指すので、区別するためにcastのaを添えてPCaと書きます。柱・梁・床の板などを工場でつくり、トラックで運び、タワークレーンで吊り上げて据えていきます。工場ではなく、現場の敷地内に製作場所を設けてつくる方法もあります。

現場の作業が組み立て中心になるので、1フロアを5〜8日程度でつくれます。最短で1フロア4日の例もあり、超高層では全体の工期が5か月ほど短くなることがあります。

実際は組み合わせてつくる

タワーマンションでは、全部を在来工法か全部をPCa工法にするより、部材ごとに使い分けることが多くあります。

  • 外周の柱・梁はPCaにして、建物の内側の柱・梁は現場で打つ
  • 床は、下半分を工場でつくった板(ハーフPCa板)を敷いて型枠の代わりにし、上半分を現場で打つ
  • 柱と梁が交わる部分を、梁と一体のPCa部材にする

どこまでPCaにするかは、ゼネコンが工期、コスト、敷地の広さ、クレーンの能力を見て決めます。ゼネコン各社がそれぞれ独自のPCa工法を持っています。

PCa工法が増えている理由

  • 工期が短くなる:採用の一番の理由です。階数が多いほど効果が大きくなります
  • 職人不足に対応できる:型枠や鉄筋を現場で組む職人が減るなか、現場の作業を減らせます
  • 安全性が上がる:高い場所での型枠や足場の作業が減ります
  • 品質が安定する:天候に左右されない工場で、管理された条件でコンクリートを打てます

一方で、部材の製作費や運搬費がかかるので、コストは在来工法より高くなることがあります。業界では、在来工法の1.1倍程度までなら、工期の短縮と人手の削減で見合うと考えられています。

部材のつなぎ目は最後に一体にする

PCa工法の要になるのは、部材どうしのつなぎ目です。柱や梁の鉄筋は、スリーブと呼ぶ鋼製の筒でつなぎ、中にグラウト(高強度のモルタル)を詰めて一体にします。柱と梁が交わる部分や床の上半分は現場でコンクリートを打つので、組み立てた後の骨組みは、在来工法と同じように鉄筋とコンクリートが一体になった構造になります。木造のように、金物やボルトで留めているわけではありません。

つなぎ目の施工は、グラウトがきちんと詰まっているかを継手ごとに確認して記録するよう、施工の指針で定められています。PCaの骨組みが現場打ちと同等の耐震性能を持つことは、ゼネコン各社が実物大に近い構造実験で確かめています。

買う人は工法を気にしなくていい

工法の違いを、買う人が気にする必要はありません。

  • どちらの工法でも、建物に求められる強さは同じです。構造計算で、採用する工法のつなぎ目まで含めて安全を確かめています。高さ60mを超えるタワーマンションは、時刻歴応答解析と国土交通大臣の認定を経ています
  • 工法は、ゼネコンが工期、コスト、敷地の条件で選ぶ施工の手段です。住む人から見た建物の性能を変えるためのものではありません
  • 仕上がりの品質は、工法よりも施工管理と検査で決まります。在来工法にもPCa工法にも、それぞれ検査の仕組みがあります

パンフレットの「PCa工法採用」は、品質の良さとして書かれることがあります。ただ、戸建とマンションで構造計算はどう違うかで書いたとおり、構造の余裕は基準に合わせて決まっていて、工法によって地震への強さが増えるわけではありません。逆に、在来工法だから劣るということもありません。

鉄筋コンクリートそのものの性質は鉄筋コンクリートを理解するで解説しています。

(主な参考:日本建設業連合会関西支部「建築屋さんのための特殊工事見積の解説(架構式プレキャストコンクリート工事編)」、日本建築学会「建築工事標準仕様書 JASS 10 プレキャスト鉄筋コンクリート工事」、プレハブ建築協会 PC建築技術指針(プレキャスト部材の接合)、全国コンクリート製品協会ほか「PCa製品の採用事例から見る評価検討項目調べ」(国土交通省資料)、鴻池組・長谷工コーポレーション技術研究所の技術資料)