建物は、設計の段階で、建物自身の重さや家具・人の重さ、地震や台風の力に耐えられるかを計算で確かめてから建てられます。これを構造計算といいます。どこまで細かく確かめるかは、建物の種類と大きさによって法律で決められていて、木造の戸建、鉄筋コンクリート造のマンション、タワーマンションでは、確かめ方がかなり違います。

確かめ方は建物の高さで決まる

建物の種類と高さで変わる構造の確かめ方

建物構造の確かめ方
木造の戸建(2階建て以下・延べ300㎡以下)壁量計算などの決められた手順を満たせばよく、構造計算は求められない
鉄筋コンクリート造 高さ20m以下壁や柱の量が十分なら、許容応力度計算だけで済む(ルート1)
鉄筋コンクリート造 20m超〜31m以下許容応力度計算に加えて、各階の傾き・固さの偏り・ねじれを確かめる(ルート2)
鉄筋コンクリート造 31m超〜60m以下許容応力度計算に加えて、保有水平耐力計算が必須(ルート3)
高さ60m超時刻歴応答解析を行い、国土交通大臣の認定を受ける

高い建物で使う方法は、低い建物の確認をしたうえで追加するものです。 保有水平耐力計算をする建物でも、まず許容応力度計算を行います。

区切りの高さは、そこまでならその方法で足りるという上限です。20m以下の建物でも、設計者がルート2やルート3を選ぶことはできます。反対に、20m以下でも壁や柱が少ない建物はルート1が使えず、ルート2かルート3で確かめます。

マンションは1階あたりの高さが3m前後なので、20mは6〜7階建て、31mは10階建て前後、60mは20階建て前後が目安です。

木造の戸建:壁量計算

2階建て以下で延べ面積300㎡以下の木造住宅は、構造計算をしなくても建てられます。代わりに、壁量計算などの決められた手順で確かめます。

壁量計算は、床面積に応じて必要な耐力壁(地震や風の横からの力に抵抗する壁)の長さを求め、実際に配置した壁の長さがそれを上回っているかを確かめる方法です。2000年からは、壁の配置のバランス(四分割法など)と、柱の接合部の金物(N値計算など)も決められた手順で確かめるようになりました。いずれも、柱や梁の1本1本にどれだけの力がかかるかまでは計算しません。2000年の改正については旧耐震・新耐震・2000年基準の違いで解説しています。

2025年4月には、木造の基準が次のように改正されました。

  • 構造計算が必要になる規模が、延べ面積500㎡超から300㎡超に広がった
  • 必要な壁の量を、屋根の重さや太陽光パネルの有無など、建物の実際の重さに応じて求めるようになった
  • 2階建ての木造住宅も、建築確認で構造の審査を受けるようになった(いわゆる4号特例の縮小)

同じ耐震等級3の戸建でも、壁量計算をもとにした確認で等級を取ったものと、許容応力度計算で取ったものがあります。許容応力度計算のほうが、部材ごとに力を確かめている分、詳しい確認です。耐震等級についてはマンションの耐震等級はなぜ1なのかで解説しています。

許容応力度計算:柱や梁が傷まないか

鉄筋コンクリート造のマンションは、高さに関係なく、すべての建物で許容応力度計算を行います。

許容応力度とは、材料が傷まずに耐えられる力の上限を、余裕を持たせて決めた値です。許容応力度計算では、次のような力で柱・梁・床・基礎に生じる力を計算し、許容応力度に収まっているかを確かめます。

  • 常にかかっている力:建物自身の重さ、家具や人の重さ
  • 時々かかる力:中くらいの地震(震度5強程度)、強い台風の風、積雪

高さ20m以下で、壁や柱の断面積が建物の重さに対して十分にあれば、許容応力度計算だけで済みます(ルート1)。壁や柱が多い建物は、大きな地震にも余裕があると考えられるからです。

ルート2:傾き・固さの偏り・ねじれを確かめる

高さ20m超〜31m以下では、許容応力度計算に加えて、次の点を確かめます。

  • 各階の傾き(層間変形角):中くらいの地震のとき、各階の傾きが階の高さの200分の1以内に収まる
  • 上下の固さの偏り(剛性率):ほかの階と比べて極端に柔らかい階がない。1階が駐車場などで壁の少ないピロティ形式は、ここで引っかかりやすい
  • ねじれ(偏心率):建物の固さの中心が、重さの中心から大きくずれていない
  • 細長さ(塔状比):建物の高さが幅の4倍以下

あわせて、柱や壁の量についての条件も満たす必要があります。満たせない場合は、ルート3で確かめます。

ルート3:保有水平耐力計算

高さ31m超〜60m以下では、保有水平耐力計算が必須です。

許容応力度計算が中くらいの地震で建物が傷まないかを確かめるのに対し、保有水平耐力計算は、数百年に一度の大きな地震(震度6強〜7程度)で建物が倒れないかを確かめます。柱や梁が壊れ始めてから建物が倒れるまでに、横からの力にどれだけ耐えられるか(保有水平耐力)を計算し、法律で求められる値(必要保有水平耐力)を上回っているかを見ます。

求められる値は建物によって変わります。変形しても粘り強く耐える建物は小さく、急に壊れやすい形式の建物は大きくなります。上下の固さの偏りやねじれがある建物も、求められる値が割り増されます。

保有水平耐力計算の代わりに、限界耐力計算という別の方法を使うこともできます。

高さ60m超:時刻歴応答解析

高さ60mを超える建物は、時刻歴応答解析で安全を確かめ、国土交通大臣の認定を受けなければ建てられません。20階建て前後より高いタワーマンションの多くがこれにあたります。

ルート1〜3では、地震の力を、建物を横から押す一定の力に置き換えて計算します。時刻歴応答解析では、地震の揺れそのものを使います。コンピューター上に建物のモデルをつくり、地面の揺れの記録を細かい時間刻みで入力して、各階がどう揺れ、柱や梁にどれだけの力と変形が生じるかを、揺れが収まるまで追いかけます。

入力する揺れには、過去の地震で実際に観測された記録と、国の基準に合わせてつくった揺れを、それぞれ複数使うのが一般的です。観測記録では、1940年のアメリカ・エルセントロ、1952年のアメリカ・タフト、1968年の十勝沖地震の八戸港の記録が長く使われてきました。

設計の内容は、国が指定した評価機関で専門家の審査(性能評価)を受け、そのうえで大臣の認定を受けます。

大阪を含む、南海トラフ沿いの巨大地震で揺れが大きくなると想定される地域(関東・静岡・中京・大阪)では、2017年4月以降に性能評価を申請する超高層建築物について、周期が長くゆっくり大きく揺れる長周期地震動を、建設地ごとに想定して確かめることになりました。それより前に建てられたタワーマンションには、この確認は求められていませんでした。

構造計算を別の機関がもう一度確かめる

2005年に発覚した構造計算書の偽装事件をきっかけに、2007年から、ルート2・ルート3などの構造計算は、原則として、建築確認とは別に構造計算適合性判定を受けるようになりました。都道府県知事などが指定した判定機関が、構造計算の内容を改めて確かめる仕組みです。高さ60m超の建物は、前の節の性能評価と大臣認定で確かめられます。

ただし、こうした審査で確かめるのは、法律の基準を満たしているかどうかです。基準をどれだけ上回っているかは問われません。

マンションの構造設計は基準ぎりぎりを狙う

分譲マンションの構造設計は、施工するゼネコンの設計部門が担当することが多くあります。なかでもスーパーゼネコンの構造設計部門は、大学院で構造工学を学んだ人が多く、建設業界で最も理論に強い集団です。

その力が向けられる先の一つが、コストの削減です。分譲マンションは、売主が事業の採算から工事費を決め、ゼネコンは受注競争の中でその予算に収めなければなりません。構造の余裕は、そのまま鉄筋とコンクリートの量、つまり工事費になります。法律の基準を満たす範囲で柱や梁を細くし、鉄筋の本数を減らしていくのが、構造設計者の腕の見せどころです。計算の精度が高いほど、削れる余裕も大きくなります。

そのため分譲マンションの耐震性は、法律の基準ぎりぎりを狙って設計されているのが普通です。 基準には、材料の強さを低めに見込むなどの余裕が組み込まれているので、ぎりぎりだから危ないというわけではありません。大きな地震で倒壊しないという基準の性能はあります。ただ、基準を上回る余裕はほとんど残っていないと考えておくべきです。

マンションのホームページやパンフレットには、「高強度コンクリートを採用」「支持層まで届く杭〇本」のように、構造の良さを示す記載がほぼすべての物件にあります。ただ、強いコンクリートを使うのは、そのぶん柱や梁を細くして、コストを抑え、部屋を広く使えるようにするためです。材料が強くなったぶんだけ部材を小さくするので、建物としての地震への余裕は増えません。杭も同じで、本数や太さは建物の重さと地盤から計算で決め、必要な分を満たしたところで止めます。杭の本数が書かれていても、それは必要な本数を満たしているという意味で、余裕を持たせた本数ではありません。パンフレットの記載を見て安心するのではなく、設計は常に基準ぎりぎりだと考えておくべきです。

基準より余裕を持たせた建物は、耐震等級2・3を取得しているなど、そのことを売りにしています。余裕の大きさは、構造計算書で、保有水平耐力が必要な値の何倍あるかを見ると分かります。中古マンションの構造計算書は、竣工図などと一緒に管理組合が保管していることが多いので、閲覧できるか管理会社に確かめてみてください。

(主な参考:建築基準法第20条、建築基準法施行令第36条の2・第81条・第82条、平成19年国土交通省告示第593号、昭和55年建設省告示第1791号、国土交通省「超高層建築物等における南海トラフ沿いの巨大地震による長周期地震動への対策について」(2016年)、国土交通省 令和7年4月施行の建築基準法改正資料)