前回、大阪市内の1億円超の在庫は2.4年分あり、過多だと書きました。

先に分母を決めておきます。以下の数字はすべて、当サイトが追っているタワーと大規模の330棟、在庫1,701戸についてのものです。そのうち822戸、48.3%が1億円以上を占めます。

在庫は市場全体ではなく、特定の棟に寄っています。棟ごとに数えていくと、在庫率が何を映しているのかが見えてきました。

大阪の中古在庫は、全体としては薄い

総戸数に対していま何戸が売りに出ているかを、棟ごとに計算しました。以下これを在庫率と呼びます。対象は総戸数が判明している330棟です。

在庫率
棟ごとの中央値1.12%
上位25%の棟2.24%以上
上位10%の棟4.07%以上
市内全体(在庫の合計÷総戸数の合計)1.86%

半分の棟は在庫率1.1%以下です。100戸の棟なら1戸、300戸の棟なら3戸。これは普通の回転で、市場全体が売り物であふれているわけではありません。

ところが分布は偏っています。在庫の多い上位20棟だけで、1,701戸のうち621戸(36.5%)を占めます。330棟のうちの20棟に、在庫の3分の1以上が集まっている。

在庫率5%以上を在庫過多とすると、該当は18棟。その18棟に471戸、全体の28%が載っています。

竣工直後の在庫は、転売で説明がつく

偏りの半分は、竣工年で説明できます。

竣工年棟数総戸数在庫在庫率1億円超の比率
2025年以降123,2452266.96%66.4%
2023〜24年204,7831693.53%59.2%
2020〜22年308,6082542.95%65.4%
2015〜19年6219,9283821.92%52.4%
2010〜14年5115,8341931.22%42.0%
2009年以前15538,8844771.23%26.2%

2025年以降に竣工した棟の在庫率は6.96%で、2009年以前の5.7倍。在庫過多18棟のうち12棟が2023年以降の竣工でした。ザ・パークハウス大阪梅田タワー(2025年竣工)は173戸のうち42戸、4戸に1戸が同時に売りに出ています。

これは転売です。竣工と同時に売りに出すのは、住むために買った人ではありません。引き渡しのタイミングでまとめて中古市場に出てきます。

ただしこれは近年の現象です。築15年を超えた棟の在庫率が1%台なのは事実ですが、その棟が建った当時も同じことが起きていたとは限りません。竣工直後に売り物が集中するようになったのは、ここ数年のことです。

説明がつかない棟がある

問題はもう半分です。

ザ・パークハウス中之島タワーは2017年竣工で、894戸のうち56戸が売り出し中。在庫率6.26%です。グランドメゾン新梅田タワー THE CLUB RESIDENCEは2021年竣工、871戸のうち49戸で5.63%。竣工から9年と5年、転売の波はとうに過ぎた棟です。

しかもこの在庫が膨らんだのは、今年に入ってからです。ずっとこの水準だったわけではありません。当サイトの記録は今年7月からなので推移そのものはお見せできませんが、日々見ている実感として、こうした棟の売り出しが増えたのは2026年に入ってからでした。

築年で説明がつかないなら、何が効いているのか。ここからが本題です。

在庫率から、投資マネーが入る条件が分かる

在庫率は、その棟が投資の対象になっているかどうかを映します。持ち主が住んでいなければ売買の判断は早く、住んでいれば相場が動いた程度では動かない。ということは、在庫率で棟を分けていけば、投資マネーが何を選んでいるかを逆算できます。

大阪市内、200戸以上、築3年以上の136棟で、条件を1つずつ足していきました。

条件その1。タワーであること。

棟数在庫率坪単価(中央値)
板状(19階以下)32棟0.60%273万円
タワー(20階以上)104棟2.34%448万円

タワーというだけで3.9倍です。板状の大規模には、そもそも投資が入っていません。

条件その2。都心にあること。

タワーだけを取り出して、場所で分けます。

棟数在庫率坪単価(中央値)
都心(北・中央・西・福島)70棟2.82%508万円
都心の周縁(浪速・天王寺・都島)13棟0.92%398万円
それ以外の区21棟1.43%252万円

同じタワーでも、都心は周縁の3.1倍。難波や天王寺のタワーには、梅田や中之島ほどには入っていません。

条件その3。そのうえで、価格帯が上であること。

都心のタワー70棟を、坪単価で二つに割ります。

棟数在庫率1億円超の比率
坪単価508万円以上35棟3.54%77%
坪単価508万円未満35棟1.94%40%

1.8倍。高さでも立地でもなく、条件を揃えたあとに最後まで残る差です。

タワーであること、都心にあること、そのうえで価格帯が上であること。この3つが重なった棟に投資マネーが集まり、それがいま在庫として出てきています。1つでも欠けると、売り物はほとんど出ません。

3つ目の条件の正体

最後に残った差を、実際の棟で見ます。竣工年をそろえ、階数もほぼそろえた組です。

竣工年階数総戸数在庫在庫率坪単価
2013年ジオタワー天六北区44階400戸5戸1.25%488万円
2013年堂島ザ・レジデンスマークタワー北区39階269戸12戸4.46%608万円
2016年ジオタワー南堀江西区35階205戸3戸1.46%471万円
2016年シティタワー梅田東北区44階501戸23戸4.59%514万円
2018年プレミストタワー大阪新町ローレルコート西区38階298戸6戸2.01%559万円
2018年グランドメゾン新梅田タワー北区39階297戸15戸5.05%590万円
2021年ジオタワー南森町北区37階250戸3戸1.20%564万円
2021年MJR堺筋本町タワー中央区37階296戸14戸4.73%578万円

どの組も在庫率が2.5倍から3.9倍違います。

なかでも2018年の組は、条件がほとんど一致しています。38階と39階、298戸と297戸、坪単価559万円と590万円。同じ年に建った同じような規模のタワーで、片方は6戸、もう片方は15戸が出ている。2021年の組も37階どうしで坪単価はほぼ同じです。

築年も、高さも、規模も、立地も揃えました。それでもこれだけ差が残ります。

(戸数は3戸や6戸という単位なので、たまたま今そうなっているだけの可能性は残ります。)

差を作っているのは、土地の出方

ここからは考察です。数字で確かめたものではなく、棟を並べて気づいたことになります。

同じ築年、同じ高さ、同じ都心。それでも在庫率が3倍から4倍違う。ここにはドヤれる建物かどうかと、住人が愛着を持てる街かどうかの2つが効いています。ただしこの2つは別々の要因ではありません。片方がもう片方を呼んでいます。

ドヤれるか — 建物の個性

ドヤ度は建物の話で、立地の良し悪しではありません。ランドマークとして通用するか、共用部に金がかかっているか、外観で他と見分けがつくか。

天六と堂島、南森町と堺筋本町。どちらの組も都心のタワーで、駅からも近く、管理も同じように動いています。住むための評価で、片方が劣るとは思えません。

違うのは建物の作り方です。堂島ザ・レジデンスマークタワーは、名前にマークタワーと入るとおり、象徴性を前に出した建物です。一方のジオタワー天六とジオタワー南森町は、共用部の派手さも、外観としての迫力も、そこまで狙っていません。同じ事業者が各地で展開しているシリーズの一棟で、住む場所として過不足のない作りです。

以前に書いたとおり、値上がり益を狙う買いは、誰が見ても分かる価値がある棟にしか入りません。タワーであることと、ドヤれることは同じではないということです。

ドヤマンションは、人が住む街には建ちにくい

では、なぜ建物の個性に差がつくのか。土地の出方だと考えています。

在庫が厚い棟の場所を並べてみます。堂島、新梅田、中之島、梅田東、そしてうめきた。オフィス、倉庫、工場、貨物駅の跡地です。こうした土地は、まとまって大きく出ます。地権者が少なく、区画も整っている。だから大きく作れて、象徴性のあるタワーが建てられます。

在庫が薄い棟の場所は逆です。天六、南森町、南堀江、新町。いずれも江戸期から人の生活があった市街地で、土地は細かく分かれ、地権者も多い。まとまった敷地が出にくいので、そもそも象徴になるような棟は建てられません。建っても規模と作りは抑えめになります。

つまり、ドヤれる建物と人が住んできた街は、構造的に同じ場所に成立しにくい。建物の個性の差と街の歴史の差は、別々に生まれたのではなく、土地の出方という同じ原因から同時に生まれています。

古い街でも、まとまった土地が出ることはあります。上町台地です。学校跡や社宅跡があり、名前にタワーとつく棟が17棟建っています。ある程度のドヤ要素は備えているので、在庫率もそれなりです。築3年以上の12棟で2.23%。都心のタワー全体の2.82%ほどではありませんが、天六や南森町のような1%台にはなりません。

だから差が大きく出る

この構造のせいで、2つの効果が同じ棟に重なります。

ドヤれる建物には投資マネーが入ります。持ち主は住んでいないので、相場の向きが変われば売ります。しかもその棟が建っているのは、もとから街のなかった場所です。住んでいる人にとっても、その土地に縛られる理由が薄い。

逆に街が先にあった場所では、投資マネーが入りません。買ったのはその街に住みたい人で、近所付き合いも、通う店も、子どもの学校もある。相場が動いた程度では出ていきません。

売る理由がある人が集まる棟と、売る理由がない人が集まる棟。要因が重なるぶん、在庫率の差は片方だけの理由より大きく出ます。

在庫率は、市場評価の裏返し

ここまでをまとめると、在庫率の読み方が変わります。

市内の在庫の坪単価は中央値で488万円ですが、在庫の厚い棟は中之島タワー715万円、CLUB RESIDENCE 694万円、ブランズタワー梅田North 759万円、グランフロント大阪オーナーズタワー1,105万円。市場の1.4倍から2.3倍で取引されています。

売り物が多いのは、その棟が選ばれたからです。投資マネーは、誰が見ても分かる価値がある棟にしか入りません。そして入った棟では、持ち主が住んでいないぶん売買の判断が早くなる。実需で買って住んでいる人は、相場が動いたくらいでは売りません。

だから在庫率は、低いほど良いという指標ではありません。在庫率の高さは、不人気の指標ではなく、投資の対象になっているかどうかの指標です。裏を返せば在庫率の低さは、住んでいる人がそこを離れないという指標でもあります。

買う人と売る人へ

在庫率の高い棟は、買う側にとっては選択肢が多いということです。同じ棟の中に比較材料が並び、階も向きも価格も見比べられます。売主の多くは住んでいないので、保有し続けるコストを抱えています。

売る側から見れば、そこが厳しさになります。棟の魅力は競合と共有されていて、差になりません。中之島タワーが良い棟であることは、同じ棟の他の55戸にも等しく当てはまります。

推察ですが、こうして在庫率から棟を読み分けられるのは、いまが調整局面だからだと思います。相場が上がり続けている間は、どの棟でも売り物はすぐに消えます。在庫が積み上がらないので、棟ごとの差も表に出ません。向きが変わって初めて、投資マネーが厚い棟から順に売り物が出てくる。いま在庫率に差が出ているのは、市場が値踏みをやり直しているからです。

その値踏みが済めば、また分からなくなります。棟の評価を在庫から読めるのは、この時期だけです。

投資マネーが厚い棟は、価格の振れ幅が大きくなります。持ち主が住んでいない住戸は、相場の向きが変われば早く動くからです。

そして同じ理由で、市況が再び上向いたときに強く戻るのもこれらの棟です。いまの在庫の多さは、上下どちらにも振れやすい棟だという印だと考えています。

そのうえで、在庫の理由によって時間の意味が変わります。

売るなら

竣工から数年の棟で急ぐ理由がないなら、待つ選択があります。いま出ている在庫の多くは転売で、住むために買った人の売り物ではありません。転売分が一巡すれば競合は減るはずです。ただし何年で一巡するかは、まだ確かめられていません。

評価されて在庫が厚くなった棟は、待てば減るとは限りません。竣工からの年数では説明がつかない在庫だからです。判断の材料は築年ではなく相場の局面になります。いまが調整局面だとすれば、売り急ぐ理由がない限り、振れ幅の下側で手放すことになります。

買うなら

竣工直後の棟は、いま競合が多いぶん交渉の余地があります。転売分が一巡したあとなら、自分が売る番になったときの環境は今より良くなっている可能性があります。

評価されて在庫が厚い棟は、競合が居続けます。そのかわり上向いたときの戻りも大きい。値動きの大きさを受け入れられるかどうかが、物件の良し悪しより先に来ます。

いずれにせよ、差がつくのは棟の中の位置です。階、向き、角かどうか、そして同じ階の他の住戸と比べた価格。在庫率が5%を超える棟では、棟を選んだ時点ではまだ何も決まっていません。


在庫の戸数は日々の集計によるもので、事実と異なる場合があります。


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