大阪市内で売りに出ている中古マンションのうち、1億円以上が17.1%。タワーと大規模に限れば53.0%を占めます。

一方で、1億円を年収だけで買える世帯は大阪市に3.0%しかありません。

物件は増えたのに、買える人は増えていない。この差が何を生んでいるのか、そして買う側は何に気をつけるべきかを見ていきます。

大阪市内で1億円は、もう例外ではない

実数で確認します。いま大阪市内で売りに出ている中古マンションは7,356件、そのうち1億円以上が1,257件です。

タワーと大規模マンションに絞ると比率はさらに上がります。当サイトが監視している市内の棟では、売り出し1,524戸のうち808戸が1億円以上でした。

こうなったのは、価格そのものが上がったからです。大阪のマンション価格は2010年を100として2024年で195.2。14年で2.0倍になりました。東京もほぼ同じ倍率です。上がったのは東京だけではないのです。

一方、同じ14年間で働く人の平均給与は、全国で412万円から478万円。1.2倍にしかなっていません。価格が2.0倍で給与が1.2倍。同じ物件を買うのに必要な年収倍率は、14年で1.7倍に膨らみました。市況に実需がついていけなくなっています。

物件の側から見ると、1億円超は新しい棟に偏っています。竣工年別に、売り出し中の住戸の坪単価(中央値)と1億円超の比率を並べます。

竣工年坪単価1億円超の比率
2024年以降598万円66.7%
2020〜2023年589万円63.5%
2015〜2019年545万円58.8%
2010〜2014年440万円48.7%
2005〜2009年413万円38.9%
2000〜2004年311万円21.1%
1999年以前269万円6.9%

2024年以降に竣工した棟では売り出しの3分の2が1億円超、1999年以前の棟では6.9%です。ただしこれは同じ時点での断面であって、価格の推移を表すものではありません。築年が新しいほど1億円超に届きやすい、というだけの話です。

いずれにせよ、1億円は大阪市内で例外的な価格ではなくなりました。

年収で買えるのは、3.0%

では買い手です。住宅ローンで借りられるのは年収の7〜8倍が現実的な上限なので、価格を8で割った額がその物件に必要な世帯年収になります。価格帯ごとに、買える世帯の比率を出しました。

買い手は市の中に閉じないので、圏域の値も並べます。

物件価格必要な世帯年収首都圏東京23区近畿圏大阪市
3,000万円375万円55.8%58.0%47.6%43.2%
4,000万円500万円41.4%44.5%33.2%28.1%
5,000万円625万円30.6%34.0%23.0%19.2%
6,000万円750万円22.4%26.1%15.7%12.8%
8,000万円1,000万円11.4%15.4%6.4%5.1%
1億円1,250万円6.9%9.8%3.7%3.0%

1億円を年収だけで買えるのは、大阪市で3.0%(45,080世帯)、近畿圏全体でも3.7%(344,347世帯)です。東京23区は9.8%(517,769世帯)、首都圏は6.9%(1,210,759世帯)あります。

この表で見るべきは、差が価格とともに開いていくことです。東京23区と大阪市を比べると、3,000万円では1.3倍しかありません。5,000万円で1.8倍、8,000万円で3.0倍、1億円で3.3倍。安い帯では東京と大阪はさほど変わらず、差が効いてくるのは6,000万円を超えたあたりからです。

なお8倍は上限に近い想定です。無理のない6倍で見ると、1億円を買える世帯は大阪市で1.0%、15,337世帯まで落ちます。

さらに大阪では、都心に近づくほど買える世帯が薄くなります。

圏域都府県中心部
首都圏6.9%8.8%9.8%
近畿圏3.7%3.4%3.0%

東京は都心に寄るほど濃くなり、大阪は薄くなる。前回(大阪の富裕層はどこに住んでいるのか?)で書いた「高所得層は郊外に散らばっている」が、買える世帯の比率でも再現されました。1億円のマンションが建っている場所に、それを買える世帯が住んでいないことになります。

大阪の1億円は、東京の1.5億円にあたる

ここで東京と比べたくなりますが、同じ1億円で並べても比較になりません。東京23区では中古の売り出しの40.3%が1億円以上で、1億円は中位の商品です。大阪市では17.1%で、上位の商品です。同じ金額でも、市場の中での位置が違います。

そこで買い手の位置で揃えます。大阪市で1億円を年収だけで買えるのは上位3.0%。東京23区で同じ上位3.0%に入る世帯年収は1,858万円で、その層が買える価格は1.5億円になります。

新築の平均価格も同じ方向を示します。2026年上半期の1戸当たり平均は東京23区が1億4,249万円、大阪市部が4,813万円。東京では1億円は平均以下の物件です。

つまり大阪で1億円を出すのは、東京で1.5億円を出すのと同じ位置の買い物です。

在庫は過多なのか

ここまでで、買い手の薄さが分かりました。年収で買えるのは大阪市の3.0%。しかも大阪の1億円は、東京の1.5億円に相当する水準です。

だとすれば、こう考えるのが自然です。買える人がこれだけ少ないなら、売れ残った物件が積み上がっているのではないか。

確かめます。先ほど揃えた水準、つまり大阪市は1億円、東京23区は1.5億円で、両市の在庫を比べました。

東京23区大阪市
買い手の位置上位3.0%上位3.0%
対応する世帯年収1,858万円1,250万円
買える価格1.5億円1.0億円
その価格以上の在庫約7,400件(25.6%)1,257件(17.1%)
買える世帯156,886世帯45,080世帯
1件あたりの買い手候補21.3世帯35.9世帯

同じ格で揃えると、在庫が厚いのは東京のほうでした。大阪が特別に過剰なわけではありません。

ただし共通していることがあります。どちらの市場も、年収だけで買える層が1年で消化できる量を大きく超えています。

世帯は毎年家を買うわけではありません。全国で1年間に住宅を取得するのは、新築の持家と分譲が44万戸、中古の流通が約20万戸で、合わせて約64万戸。総世帯5,622万に対して年1.1%です。

この率を当てはめます。

東京23区大阪市
買える世帯156,886世帯45,080世帯
1年間に住宅を取得する世帯(1.1%)約1,790世帯約510世帯
その価格以上の在庫約7,400件1,257件
在庫は何年分か約4.1年分約2.4年分

しかもこの1,790世帯や510世帯は、全員がその価格帯を買うわけではありません。もっと安い物件を買う人が大半です。

大阪市の1億円超、2.4年分は過多です。実需だけでは、この量は消化できません。

(高所得世帯は平均より住み替えの頻度が高いと考えられるので、実際の取得率は1.1%より高いはずです。それでも在庫が年単位で積み上がっている構図は変わりません。)

では、なぜ2.4年分を過多と言い切れるのか。

なぜ2.4年分が過多なのか

同じ市場の他の価格帯と比べると分かります。大阪市の在庫を価格帯で分け、それぞれ「その価格を年収で買える世帯」で割りました。

価格帯在庫買える世帯1年間に取得する世帯在庫は何年分か
全価格7,356件653,184世帯約7,480世帯1.0年分
5,000万円超3,118件290,304世帯約3,320世帯0.9年分
8,000万円超1,706件77,111世帯約880世帯1.9年分
1億円超1,257件45,080世帯約520世帯2.4年分

5,000万円までの帯は、約1年分で回っています。滞留が始まるのは8,000万円を超えてからで、1億円超は市場全体の2.4倍です。

同じ市場を、同じ計算方法で見て、上の帯だけが2.4倍滞留している。これが過多と言える根拠です。

つまり大阪の中古市場が全体として過多なのではありません。在庫が積み上がっているのは、価格が上がった上の帯だけです。

そしてその帯は、特定の物件に偏っています。当サイトが監視しているタワーと大規模棟では、売り出しの53.0%が1億円超。市場全体の17.1%に対して3倍です。1億円超の在庫は市内126棟に集中し、上位10棟だけで4割を占めます。

大阪の市況を牽引してきた、値上がりが著しかった物件ほど、実需に対して在庫が厚くなっているということです。

実例:同じ棟で50戸が同時に売られている

その代表的な2棟で見ます。

ザ・パークハウス中之島タワーグランドメゾン新梅田タワー THE CLUB RESIDENCE
竣工2017年2021年
総戸数894戸871戸
いま売り出し中54戸49戸
総戸数に対する比率6.0%5.6%
うち1億円以上50戸(93%)39戸(80%)
価格帯7,230万〜4億8,000万円7,980万〜4億8,000万円
坪単価(中央値)715万円706万円
同じ階に複数戸が出ている階15階分14階分

中之島タワーは894戸のうち54戸、17戸に1戸が同時に売りに出ています。そのうち93%が1億円超です。

しかもこの54戸は棟内に散らばっているわけではありません。15の階では、同じ階に複数の住戸が並んで売られています。買い手から見れば同じ階の中に選択肢があり、売主から見れば真横が競合ということです。

新梅田タワーも同じ構図で、871戸のうち49戸が売り出し中、14の階で複数戸が競合しています。

では、誰が買っているのか

年収で買えるのが3.0%なら、残りは別の原資で買われています。3つあります。

投資家

2025年に近畿圏で発売された新築マンション1万6,922戸のうち、投資用物件は4,977戸で29.4%。3戸に1戸が投資目的です。大阪市部の新築の平均専有面積が41.5㎡しかないのは、これが理由です。

課税所得1億円を超える納税者は全国で1万5千人。このうち給与・事業・その他の所得で到達した人は1万人強で、残りの29%は分離課税、つまり株式や不動産の売却益で1億円を超えています。

経営者・自営業

課税所得2,000万円を超える比率は、給与所得者が0.5%なのに対し、事業所得者は1.7%。事業をしている人は、会社員の3.7倍の確率で高所得層に入ります。

ただし大阪の事業所得者は納税者全体の3.8%で、全国の3.6%とほとんど変わりません。商都という印象ほど厚くはなく、この層だけで埋まる量ではありません。

含み益を持った一次取得者

そして、おそらくこれが最も見落とされています。

冒頭で見たとおり、大阪のマンション価格は14年で2.0倍になりました。これは既に買っていた人にとって、そのまま含み益になります。

2013年に4,500万円の物件を、頭金500万円・借入4,000万円(35年・金利0.6%)で買った場合を計算します。

現在の価値8,310万円
ローン残債2,832万円
売却して手元に残る額5,478万円

この5,478万円に、年収1,000万円の人が借りられる8,000万円を足すと1億3,478万円。年収1,000万円でも、11年前に一度買っていれば1億3,000万円に手が届きます。

大阪の1億円以上のマンションを買う人へ

整理します。大阪のマンション価格は14年で2.0倍になり、1億円は例外ではなくなりました。しかしその1億円を年収だけで買える世帯は、大阪市に3.0%。無理のない6倍で見れば1.0%、15,337世帯しかありません。残りを買っているのは、含み益・事業・投資で資本を手にした人たちです。

ここから3つのことが出てきます。

ひとつめ。年収だけで1億円を出せるなら、あなたは大阪市の上位3.0%です。無理のない6倍で見れば上位1.0%、100世帯に1世帯です。それくらい稀な位置にいるということです。

問題は、売るときの相手も同じだけ稀だということです。いま買う物件は、いずれ誰かに売ることになります。そのときの買い手候補は市内に45,080世帯、1年間で住宅を取得するのはそのうち約510世帯しかいません。

実際にはここへ資本で買う層が加わります。ただしその層は月々の返済額ではなく、手元資金と利回りで判断します。その層に選ばれる物件かどうかが、売却時の価格を決めます。

買えることと、売れることは別です。自分が買える価格帯だからといって、次に同じように買える人が現れるとは限りません。出口が狭いことを、買う前に認識しておくべきです。

そしてここから、物件選びの基準そのものが変わります。1億円超では、実需に好まれる物件ほど出口が狭くなります。使いやすい間取り、日当たり、生活利便、学区。こうした価値は年収で買う層には響きますが、その層は3.0%しかいません。

実際に買っている資本を持つ層と投資家層が見ているのは別の要素です。前に書いたドヤ要素、つまりランドマーク性、共用部の派手さ、外観です。自分がそこに住むかどうかとは別に、誰が見ても分かる価値を買っています。

住み心地で選んだ1億円と、ドヤ要素のある1億円では、売るときの相手の数が違います。1億円を超えるなら、投資家層が評価する要素があるかどうかを必ず確認してください。

ふたつめ。近畿圏の資本を持つ層は、そもそも都心を好んでいません。近畿圏の高所得世帯は都心に近づくほど薄くなります(圏域3.7%、大阪府3.4%、大阪市3.0%)。前回書いたとおり大阪の富裕層は箕面や豊中や帝塚山にいて、その多くは都心のタワーを選びません。都心の1億円超の買い手は、近畿圏の富裕層全体ではなく、そのうち都心を選ぶ一部に限られます。母数はさらに小さくなります。

みっつめ。選ばれるかどうかは、棟の中での位置で決まります。1億円超の在庫は市内126棟に集中し、上位10棟だけで4割。同じ棟に似た住戸が20戸から60戸並んでいます。買い手から見れば選択肢は棟の中に揃っていて、売主から見ればすぐ隣が競合です。

つまり、良い棟を選んだ時点では、まだ何も決まっていません。同じ棟の中で、階、向き、間取り、そして価格が他の住戸と比べてどうか。在庫が積み上がっている市場では、そこが効きます。

ひとつ、除外しておきます。ここまでは売ることを前提にした話です。一生住むつもりで、資産としての価値をまったく気にしないのであれば、この記事は当てはまりません。その場合は住み心地で選ぶのが正しい。実需に好まれる要素こそ、あなた自身が毎日受け取る価値だからです。

ただし、売らずに済む前提は思ったより簡単に崩れます。転勤、家族構成の変化、親の介護、相続。そのときに初めて出口の狭さが効いてきます。売る可能性が少しでもあるなら、買う前に確認しておくことです。

やはり、面ではなく点です。


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