前回の記事(大阪のマンションは「ドヤれるか」で価値が決まる)で、私はこう書きました。

大阪には価格の「床」がない。だからエリアを選んでも守られない。価値を決めているのは物件そのもの——「点」である。

この記事は、その補足です。

前回は「だから点を見ろ」という結論まで書きましたが、そもそも大阪はなぜそういう市場になっているのかという土台の説明を省いていました。ここを埋めておかないと、「大阪が安いのは単に地方だから」「結局は収入の差だろう」という雑な理解で止まってしまいます。

そこで今回は、市場全体の構造を数字で押さえます。大阪府内1,400棟超の売出データと各種統計を使います。

話は、東京から大阪に来た人が最初に驚くこの事実から始めます。

「梅田まで10分の駅で、築浅の大規模マンションが坪250万円で買える」

東京23区で同じ条件——都心まで10分、築浅、そこそこの規模——を探すと、坪700万円、800万円が並びます。大阪市内では、その3分の1で手に入る。

なぜこうなるのか。まず比較の土台をはっきりさせておきます。

郊外同士を比べても、差は出ない

まず、よくある誤解を潰します。「東京は広い範囲で高いから、坪300万円以下なんて無い」——これは事実と違います。

東京圏でも、都心30分圏に坪300万円台以下の駅はいくつもあります(2026年8月時点)。

都心まで坪単価
市川東京 19分223万円
川口東京 25分191万円
西船橋大手町 23分138万円
船橋東京 26分134万円
松戸東京 25分132万円

そもそも首都圏の中古マンション成約単価は坪278万円(2026年7月時点)。坪300万円以下は首都圏では標準的な水準です。

新築で見ても、千葉県 坪273万円 ≒ 大阪府下 坪261万円(2025年通年)。郊外同士を比べると、東京圏と大阪圏の単価差はほぼ消えます。

つまり「東京は高い、大阪は安い」を郊外で語っても意味がない。比べるべきは、それぞれの都市の中心同士——東京23区と大阪市内です。

東京23区と大阪市内を、同じ土俵に置く

同じ「都市の中心部」として並べると、水準がはっきり分かれます。

東京23区大阪市倍率
中古マンション成約単価坪449万円坪233万円1.9倍
新築マンション坪697万円坪384万円1.8倍

(中古は2026年7月時点、新築は2025年通年)

同じ都心部でありながら、およそ2倍の差です。この差は郊外では消えていたものが、中心部でだけ開いている。

そして「坪300万円以下」という線を引くと、両者の性格の違いが決定的になります。

東京23区の新築マンションは、最も安い葛飾区でも坪362万円。坪300万円を割る区は一つもありません(2026年時点)。23区内に、築浅で坪300万円以下という選択肢は存在しないのです。

大阪市内はどうか。当サイトのデータで数えます。梅田・淀屋橋・本町のいずれかへ30分以内の駅にある、築2010年以降・売出中の棟です。

棟数坪300万円以下坪単価の中央値
大阪市内47棟43棟(91%)240万円
大阪市外(府下・堺市)83棟65棟(78%)262万円
合計130棟108棟(83%)253万円

大阪市内だけで、9割が坪300万円以下。中央値は坪240万円です。

東京23区では「一つも無い」価格帯が、大阪市内では「9割」を占める。これが同じ都心同士を並べたときに出てくる差です。

具体例を挙げます。すべて大阪市内、通勤30分以内。

通勤坪単価規模築年最寄駅
東梅田 6分265万円477戸・19階2010年都島 徒歩5分
大阪梅田 8分255万円745戸・15階2017年神崎川 徒歩2分
大阪梅田 15分238万円240戸・14階2025年上新庄 徒歩8分
本町 19分252万円294戸・15階2013年今福鶴見 徒歩4分
本町 17分282万円318戸・15階2015年西田辺 徒歩10分

東梅田まで6分の駅で、477戸・19階建の2010年築が坪265万円。23区で都心6分といえば坪1,000万円級の立地です。

府下まで広げると、さらに極端なものが出てきます。

通勤坪単価規模築年最寄駅
大阪梅田 24分229万円470戸・35階2014年摂津市 徒歩4分
淀屋橋 22分291万円331戸・37階2010年香里園 徒歩2分
JR大阪 13分212万円386戸・15階2012年岸辺 徒歩12分
JR大阪 16分170万円633戸・17階2013年千里丘 徒歩15分
本町 28分258万円290戸・20階2011年堺東 徒歩5分

35階建タワーの470戸が坪229万円(摂津市駅徒歩4分)、37階建タワーが坪291万円(香里園駅徒歩2分)。タワーマンションが坪200万円台で買える市場が成立しています。

そして「ビジネス街の徒歩圏」にも住める

大阪市内のもう一つの特徴は、主要ビジネス街そのものの徒歩圏に住めてしまうことです。

本町・淀屋橋・北浜・肥後橋・堺筋本町・梅田といったオフィス街の徒歩10分以内にある売出中の棟を集計すると72棟。中央値は坪466万円ですが、下側はこうなっています。

坪単価築年規模立地
294万円2008年77戸・15階堺筋本町 徒歩2分
305万円2005年102戸・15階本町 徒歩3分
315万円2013年73戸・15階本町 徒歩4分
261万円2002年223戸・13階肥後橋 徒歩6分
270万円2005年56戸・15階堺筋本町 徒歩7分

堺筋本町から歩いて2分の物件が坪294万円。本町徒歩3分が坪305万円。

東京の同等立地と比べてください。千代田区の中古相場は坪886万円、東京駅周辺は坪1,016万円(2026年7月時点)。大手町・丸の内の徒歩圏に住むという選択は、価格の面でほぼ現実的ではありません。

大阪では、オフィスまで歩いて通うという選択が坪300万円前後で成立する。これは東京23区にはない自由度です。

なぜ大阪はこうなるのか

ここからが本題です。理由は、需要が弱く、供給が多い——この2つに尽きます。順に数字で見ます。

需要側 ① 人が減っている

人口(2025年)2015→25年の増減2025年の転入超過
東京圏3,698万人+85万人(+2.4%)+12.4万人(30年連続)
大阪圏1,786万人−49万人(−2.7%)+0.9万人

10年で東京圏は85万人増え、大阪圏は49万人減っています。転入超過の規模は東京圏が大阪圏の約14倍

住宅価格は、最後は「その場所に住みたい人の数」で決まります。需要の母数が縮んでいる街では価格は上がりにくい。当たり前ですが、これが最大の要因です。

需要側 ② 都心の仕事の量が4分の1しかない

賃貸オフィス面積対東京比
東京23区1,323万坪100%
大阪市297万坪23%

大阪市のオフィス床は東京23区の23%。オフィス賃料も都心5区23,287円/坪に対し、大阪主要6地区は13,411円/坪(2026年7月)。

都心に集まる仕事の量が違えば、「都心に近い住まい」への需要の強さも変わります。東京の都心近接が高いのは、そこに通う人の絶対数が桁違いだからです。

供給側 ③ 人口あたりの供給量が、大阪のほうが多い

新築マンションの発売戸数を、人口1万人あたりに直して比べます。首都圏は3,699万人、近畿圏は2,012万人と人口が倍近く違うので、絶対戸数のまま比べても意味がありません。

首都圏(戸/万人)近畿圏(戸/万人)近畿圏は何倍か
20207.367.551.03倍
20227.998.881.11倍
20246.227.531.21倍
20255.948.411.42倍

(発売戸数:首都圏21,962戸/近畿圏16,922戸=2025年。人口は2025年10月1日現在で固定して算出)

近畿圏は、人口比で首都圏の1.4倍の新築マンションが供給されています。しかもその差は2020年の1.03倍から年々広がっている。首都圏は供給を絞り続け(2025年は1973年以降で最少)、近畿圏は逆に増やしています。

人口が減っている側で、人口あたりの供給が増えている。これが大阪の価格が上がらない、最も直接的な理由です。

このことは、住宅ストック全体でも裏づけられます。

空き家率総住宅数
大阪府14.2%493万戸
東京都10.9%820万戸
全国13.8%6,502万戸

大阪府の空き家率は東京都の1.3倍で、全国平均も上回ります。東京都は全国平均を大きく下回る。世帯数に対して住宅が余っているかどうかという点で、両者は逆の位置にいます。

「結局は収入の差だろう」への回答

需要と供給で説明してきましたが、こう思った方が多いはずです。「そんな話より、単に大阪の人の収入が低いからでは?」

もっともな疑問です。住宅価格は最終的に「地元の人がローンでいくら借りられるか」で天井が決まるので、収入は当然効いています。ただ、それだけでは説明が足りません。倍率の桁が合わないからです。

東京大阪倍率
平均賃金(所定内給与)東京都 40.4万円大阪府 34.8万円1.16倍
中古マンション坪単価23区 449万円大阪市 233万円1.9倍

収入の差は1.16倍しかないのに、価格は1.9倍開いています。収入だけで価格が決まるなら、価格差も1.2倍程度に収まるはずです。残る差は、収入では説明できません。

これを裏側から確認できる指標があります。年収倍率(住宅価格 ÷ 年収)です。

築10年の中古マンション 年収倍率
東京都15.11倍
近畿圏9.17倍
全国7.48倍

東京は、収入に対する価格の重さが近畿圏の1.65倍です。もし価格が純粋に購買力で決まっているなら、この倍率は東京と大阪で揃うはずです。揃っていないということは、東京の価格は地元の購買力を超えて押し上げられている——つまり収入以外の要因が働いていることになります。

その「収入以外」の中身が、先に挙げた需要側・供給側の要素です。転入が続いて需要の母数が増え続けていること、オフィス集積が桁違いで通う人の絶対数が違うこと、供給が絞られていること。加えて東京都心の買い手は「地元の平均年収の人」ではなく、全国・海外から来る高所得層や法人・投資マネーが混ざります。平均年収の比較が前提にしている「地元の給与所得者がローンで買う」というモデル自体が、東京都心では崩れているわけです。

そしてもう一点、大阪の中だけを見ても収入では説明できないことがあります。前回の記事で見たとおり、大阪では同じ駅の徒歩圏で坪単価が2.7〜5.3倍開きます。買っているのは同じ大阪の所得水準の人たちです。同じ購買力のプールの中で、これだけ差がつく。

整理すると、こういうことです。

収入は「その地域で払える天井」を決める。しかし、その天井の下でどこに値が付くかは決めていない。

大阪の天井が東京より低いのは収入の差でも説明できます。しかし天井のはるか下に大量の物件が沈み、一部だけが天井近くに張り付いている——この分布のかたちを作っているのは収入ではありません。

では、なぜ「高い物件」は上がっているのか

ここまで「大阪は上がらない」と書いてきましたが、正確ではありません。上がっているものは、あります。しかも激しく上がっている。

まず上昇率です。中心に近いほど、上昇率が高いという関係がはっきり出ています。

前年比(2026年6月時点・売出価格)
大阪市+25.4%
大阪府+22.1%
近畿圏+14.4%

そして水準の開きです。当サイトのデータで大阪市内の売出中の棟を並べると、中央値は坪290万円ですが、上位はこうなっています。

坪単価
1,638万円グラングリーン大阪 THE NORTH RESIDENCE(うめきた)
1,239万円グランフロント大阪オーナーズタワー
1,177万円ブランズタワー・ウェリス心斎橋SOUTH

中央値の5倍以上です。全体が沈んでいる市場で、天井だけが跳ね上がっている。理由は3つあります。

① 建築費が上がり続けている

建設工事費の指数は130.9(2025年8月・建設総合)で、過去10年で約3割の上昇。公共工事の労務単価は13年連続で上昇しています。円安と資材高、人手不足が効いています。

新築の原価が上がれば、新築価格は上がります。そして新築が上がると、その代替になりうる築浅・上位グレードの中古も引き上げられる。この波は上位の物件にだけ及びます。郊外の築古板状は、新築の代替候補ではないので引き上げられません。

② 上位物件の買い手は「大阪の所得」と関係がない

前章で見たとおりです。坪1,000万円超の住戸を買うのは、大阪の平均年収でローンを組む人ではありません。高所得層、法人、投資マネー、海外資金です。

大阪の平均所得が伸びなくても、この層の購買力は動きます。だから所得が横ばいでも、上位物件の価格は上がる。逆に言えば、この層が見向きもしない物件は、地元の所得という天井に押さえられたまま動きません。

③ 上位になれる物件は、増やせない

これが決定的です。

供給の話をもう一度思い出してください。人口あたりの供給が1.4倍多いのは事実ですが、それがどこで起きているかです。増えているのは郊外・準都心の中規模マンションで、うめきた・中之島・心斎橋のようなランドマークになれる土地は限られています

つまり、過剰供給は下の層で起き、希少性は上の層に残る。同じ市場の中で、供給が増え続ける層と、そもそも増やせない層に分かれているのです。

結論:全体が沈むのではなく、下が沈んで上が上がる

大阪の平均や中央値だけを見ると「横ばい」に見えます。しかし中身は、下と上に開いていく動きです。

  • 下の層:供給が増え、需要の母数が減り、地元の所得に天井を押さえられて動かない
  • 上の層:建築費に押し上げられ、所得と無関係な資金が入り、供給が増えないので希少性が維持される

「大阪は安い」と「大阪の一部は高騰している」は、両立します。そしてこの二極化こそが、次の話につながります。

買う人にとって、これは何を意味するか

大阪市内は「妥協の順番」を自分で選べる市場です。

東京23区では、坪300万円台という予算を出しても、23区内に築浅の選択肢がありません。予算を下げれば自動的に「区の外へ出る」ことになり、選択の余地が乏しい。

大阪市内では、坪250万円という予算に対してこれだけの選択肢が同時に存在します。

  • 通勤6〜8分(都島・神崎川)で、大規模・築浅
  • 通勤15〜20分(上新庄・今福鶴見・西田辺)で、より広い住戸
  • オフィス街の徒歩圏(堺筋本町・本町)で、コンパクトな住戸
  • 府下まで出れば(摂津市・香里園・堺東)、タワーの高層階

同じ予算で、通勤時間・広さ・グレード・立地のどれを取るかを自分で決められる。これが「選択肢の数が違う」ということの実態です。

やはり、面ではなく点

ここまでが、前回の記事で省いた「土台」の説明です。最後に、前回の結論とつなぎます。

選択肢が多いという事実は、買うときには恩恵ですが、売るときには脅威です。

先ほどの表を売り手の側から読み直してください。梅田・淀屋橋・本町へ30分以内に、築2010年以降の売出が130棟並んでいる。あなたがそのうちの1棟を持っているなら、売るときは残りの129棟と競合するということです。

しかもこの市場は、人口が減り、供給が増えている側にあります。需要が供給を下回る市場で起きるのは、選ばれる物件と選ばれない物件が容赦なく分かれること。全体が緩やかに沈む中で、一部だけが値を保ちます。

つまり大阪では、資産性を維持できる物件はごくわずかです。

そして前回書いたとおり、その「わずか」を決めているのはエリアではありません。大阪では同じ駅の徒歩圏で坪単価が2.7〜5.3倍も開きます。心斎橋の目の前にも坪224万円の棟があり、中之島にも坪259万円の棟がある。エリアは価格の下限を守ってくれない。

東京なら「23区のこのあたり」という面の判断が、ある程度まで資産性を担保します。住所が価格の床を作るからです。大阪にはその床がない。だから効くのは「点」の判断だけになる。

この記事で見てきた構造は、すべてその結論を補強しています。

  • 選択肢が多い(通勤30分圏に130棟)ということは、競合が多いということ
  • 価格が上がりにくい(人口減・供給増)ということは、全体が守られないということ
  • エリアで水準が決まらないということは、面の判断が使えないということ

だから、見るべきは棟そのものです。同じ通勤圏の129棟と並べられたときに、選ばれる理由があるのか。その判断基準は前回の記事に書いたとおり——ランドマーク性、共用部、外観、専有部仕様の順です。

裏を返せば、住むこと自体を目的にするなら大阪市内は極めて有利です。同じ予算で得られる暮らしの質は、23区とは比較になりません。ただしそれは「値上がりを期待しない」という前提込みの有利さです。

住むための買い物なら、選択肢の多さを存分に使えばいい。資産として持つつもりなら、点を見極める作業から逃げられない。大阪では、この2つは明確に別の買い方になります。

まだ前回の記事を読んでいない方は、あわせてこちらもどうぞ。

大阪のマンションは「ドヤれるか」で価値が決まる


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